これは、私がインドにある公立病院の整形外科にて、初期臨床研修医として働いていた時に出会った夫婦の話です。
うちの病院には予約システムがなく、99%が当日受付の患者さんです。
さらに、普段より午前9時~午後2時にかけて約150人が当日入ってくるため、非常に忙しく患者1人あたり4分程度の診療時間になります。
初期臨床研修医の私は、その4分の間に問診・検査・診断を行い、処方箋を出します。
より詳しい処置が必要な患者さんは、午後2時以降に対応する流れです。
ある日、65歳くらいの老夫婦が病院にやってきました。
奥さんは滑って転んでしまったことで右腕が腫れあがっていたので、レントゲンで検査したところ右腕は骨折していました。
一通りの診察を済ませた後、ギプス用の石膏型を取ってもらうよう隣の部屋へ案内しました。
その時に、腕を動かせるようになるまでは最低でも45日間は手を自由に動かせないでしょう、と忠告しておきました。
すると、それまで一言も発さなかった旦那さんが突然、他に方法はないのかと尋ねてきたので、奥さんの不便を心配する優しい方だなあと感心していました。
残念ながらギプスは着用必須のため、もし詳しい診断が必要であれば少し待ってもらい、午後2時以降に後期研修医に引き継ぎますよ、と伝えました。
旦那さんの心配は奥さんではなく、他のところにあるようで…
旦那さんは私の説明に対し、別に手術をしてほしいわけではなくて、彼女の右手が利き手なのにギプスをはめなければいけないのか、という質問を繰り返しました。
よほど奥さんの日常生活への支障を気にかけているのだなと思っていると、
「妻がギプスをしている間、誰が家事をやってくれるんだ!」
と呆れた言葉が彼の口から出てきました。
奥さんの心配一は切なく、無駄な診療時間延長に腹を立てた私
こんな身勝手な旦那さんへの質問対応に診療時間が延び、他の患者を見れるはずだった時間を無駄にされた私は腹が立ち、ついに彼に面と向かって聞きました。
「こちらのおばあちゃんとのご関係は?」
「妻です。」
「あら、そうは見えませんけど。」
「どういう…」
「あなたの話し方を見ていると、あなたの使用人か召使いのように見えますよ。」
「……」
「あなたの腕は折れてませんか?痛まないですか?」
「いや、まったく問題ないです。」
「そうですか。なら、なんでご自身で家事ができないんでしょう?」
一連の対話の後、奥さんだけを診療室に残しギプスをはめ、必要備品や処方薬も渡しました。
この出来事から特に病院にクレームは入っておらず、今ではあの非常識な旦那は休憩室の笑い話として紅茶のお供になっています。
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